知って得!!実に衝撃でスリル満点!!な小説だ。~神々を狂わせた絶世の美少年「アドニスと死す」(新宿ローズ著)
タイトルに魅かれてアマゾンから取り寄せた小説です。
想像を超えた世界・・・男同士の愛に目覚め・・・汚れた芸能界から美少年を救い出し、己の人生を”毒喰えば皿まで”と・・・。ともかく面白い。手に汗握る。親友を殺してまで愛を貫く・・
初めて知る世界の小説で、解説が難しいので、冒頭部分をそのまま掲載させていただく。一読の価値あり。
序章・薔薇と蛇のタトウのある男の全裸遺体発見
炎暑地獄日本列島襲う!!
熱中症死者五十九名!
全国各地の海水浴場は、人、人、人の海!
こんな大見出しが新聞各紙の朝刊一面に踊ったのは、六月に入った第一日曜日だった。
翌、月曜日早朝、万葉集でも詠われた風光明媚な、和歌山県和歌の浦の片男波海岸で、茶髪で肩幅のしっかりした若い男の変死体が発見された。
―月曜日、午前六時半―
先週の金曜日、土曜日、そして昨日の日曜日、片男波海水浴場は、数万人もの海水浴客で芋の子を洗う状態だった。
夜が白む頃まで続いた嬌声と、改造車の爆音と、耳を劈くようなクラクションも嘘のように消え、いまは浜辺も陸も静寂に包まれ息を潜めている。
この時期のこの時間、普段なら心地良い和歌の浦の海風に、つかの間の癒しを覚えるのだが、今朝は海風も途絶え、この数日でアスファルトが蓄えた地熱が、呼吸の度に肺の中まで入りムッとする。
それでも波打ち際に寄せるさざ波は、地平線に昇り始めた陽光を、金粉のように撒き散らし煌き、揺れていた。
男の変死体を発見したのは、和歌山市内から車で遊びに来ていた、真っ黒に日焼けした水着姿の若い男女のカップルだった。前夜は近くの松林に停めた車で寝たのだが、あまりの暑さに目が覚め、耐えかねて、夜が白む前から波打ち際を散歩していて発見した。
長い砂浜が防波堤で途切れた先の、岩と岩の間に挟まったボートの中で、男はうつ伏せになっていた。全裸だった。
最初は寝ているのかと思った。が、よく見ると、全身が火ぶくれ状態でパンパンに腫れ、背中や尻、太ももの一部は、皮膚が破れて水分が流れ出し黒ずんでさえいた。彼らは互いに目を合わせ、息をのみ、顔を引きつらせて近くの海の家に走った。
海の家の床のゴザの砂掃除を終え、冷たい麦茶で喉を潤していた海の家の主婦が、血相変えて飛び込んできたカップルの話に驚き、110番した。
正確に記すなら、110番で駆けつけたパトカーの警察官が、ボートの中の男を覗き込んだ時点では、まだ完全な死体ではなかった。
パトカーの警官からの無線で署から走った篠沢陽一刑事と、今年、四月に赴任してきた学卒の若手で、やや髪が長めの窪田章介刑事が受けた報告では、最初に警官が男に大声をかけたとき、男は微かに動き、声を出したという。
呻き声のようでもあったが、言葉を呟いたようにも聞こえ、何度か声を掛けた。男の洩らした言葉は「ミキ」と聞こえたような気がしたという。
「ミキ、ですね」
窪田刑事は、メモを手に汗だくの警官に再度尋ねた。
「いえ、ミキって言葉というより、ミとキのような声が聴こえただけでミチの聞き間違えだったかもしれませんが・・」警官は頼りない答え方をした。
男はその呻き声、それを最後に呼吸を止め死体となった。
救急車を待つ間もなかった。
ボートの中とその周辺の海中、岩場を丹念に調べたが身元を確認する衣類や、財布等の所持品は見当たらず、この猛暑の中、バスタオルも飲料水類の容器もなかった。唯一、男の右手には、手のひら大のシルバー色のカセットが握られていた。
篠沢刑事は首を覆う長い茶髪を持ち上げると、強いアルコールの臭いが鼻を衝いた。顔の火傷がひどい。しかし、首を絞められたような痕も外傷もなかった。顔と胸の火ぶくれ状態から判断すると、最初は仰向けにボートで寝ていたのだろうが、あまりの暑さに無意識に寝返りを打ち、うつ伏せになったものと推測された。本能的に身を庇ったのだろうか。
「篠沢さん、長さん、タトウです!」
篠沢刑事の反対側から遺体を覗いていた窪田刑事が、額を流れる汗をハンカチで拭きながら大きな声をあげた。
「たとう?」
「先輩、刺青ですよ。刺青!」
窪田が見つけたタトウは、篠沢が髪を持ち上げた位置からは見えなかったのだ。右の二の腕に赤い薔薇と三枚の葉のタトウがあった。
他に特徴はないか背後を端から端まで調べ、今度は警官にも手伝わせ、遺体を右の赤い薔薇の方向から起こし表に返した。三人の目が一点に集中した。
左の太股の股間に近い部分で、なにやら赤黒いものが動いた。いや、蠢いたように見えた。目を近づけると赤い蛇と黒い蛇が縄状に絡み合い、二匹の口から伸びた赤い舌と舌を、絡み合わせているタトウが刺っていた。
赤い蛇と黒い蛇が絡み合い、太股をよじ昇り、口から伸びた二本の赤い舌の先は、いまにも男根に絡みつこうとしているように見える。
窪田刑事は、その道の雑誌などに掲載されるSM行為を想像し、寒くなる思いがした。
「なんだか卑猥というか、おどろおどろしてグロテスクというか・・・」
窪田は衝撃を受けながらも、目に焼き付けるように見つめている。そして顔を赤らめて目を逸らした。
目の錯覚だろうか、篠沢刑事がタトウをよく観察すると、黒い蛇の尾の先の部分が、赤い蛇の体内に差し込まれているように見える。それを窪田に言おうとしたが止めた。
もしかしたら・・・これは・・・人間同士、男女のセックスを蛇の交尾に置き換えて描いているのではないか。肉体を求め合い、溺れあい、爛れあい、絶頂に上り詰めるまで・・・いや、死が二人を分かつまで離れまいとするように、そう想像を巡らせたのだが、相棒の窪田章介が若いだけに口にはしなかったのだ。
タトウも今時の連中には多い。意味はないかもしれない。どうせ刺れるなら他人と違うもの、目立つものを入れたいのが今時の連中だろう。篠沢刑事は勝手な想像を振り切った。
特に二年ほど前頃から、この海岸に遊びに来る若い連中や、和歌山市内の繁華街で屯する連中にタトウを刺れたのが増えてきている。
以前、これを東京の友人に嘆いたら、いまや東京では街中や電車の中では普通に見られるという。それどころか腰やヘソ、太股、手の甲や頬にまで刺れて、見せびらかすように身体をさらけ出しているのが多いという。
それでもほとんどは蝙蝠だの、髑髏だの、蝶や羽を広げた鳥だのトカゲだの、キリスト教信者でもないのに十字架などがほとんどだという。
この海辺でもタトウを何度か見かけたことはあるが、蛇が絡み合うのも、赤い舌まで絡み合わせ交尾までしているようなタトウは初めてだった。
一旦、自分の想像を振り払った篠沢刑事だが、これは男と女の情念。死んでもお前を離さないという、愛か、肉欲の快楽で結びついた男女の、怖いまでの執念を血で刻み込んだもののように思えてならなかった。
その時、ふと篠沢刑事は柄にもなく、歌舞伎で有名な“安珍と清姫”の悲恋物語を描いた”娘道成寺“を思い浮かべた。
美青年僧に恋をし想いを遂げた清姫が、女人禁制を厳しく申し渡され、拒む美青年僧を追いかける。
逃げ場を失った青年僧が釣鐘に身を隠すと、嫉妬と情欲で気が狂った清姫は蛇となって釣鐘に絡みつき、紅蓮の炎で釣鐘もろとも焼く尽くす物語だったような気がする。テレビで見ただけの記憶だが、そのシーンが蘇り思わず身震いした。
太股の二匹の蛇の絡み合いは、あの男女の情念に違いない。篠沢はまた、いつの間にかタトウに思考回路が戻っていた。
身元は指紋からすぐに判明した。驚いたことに和歌山県和歌山市内の孤児院出身だった。氏名は勝俣良治。両親は不明。姓名は孤児院で付けられた。二十歳。
勝俣良治は孤児院から通った中学を卒業すると、大阪市内の自動車修理工場に住み込みで就職。そこで二年ほど働くある日、市内の繁華街で暴走族に絡まれ、相手に重傷を負わせて逮捕された。
正当防衛ではあったが過剰防衛と見做され、少年院に一年間収容されている。十七歳の時だ。
右腕と太股のタトウは逮捕されたときはなかったようだ。少年院を出所以降の勝俣良治は大阪に戻らず、同じ孤児院出身者を頼って東京に行き、水商売関係の仕事に就いたという。その後の動向はまったく不明。
篠沢陽一部長刑事と窪田章介刑事の二人が、遺体と一緒に持ち帰ったカセットとの中のテープからは、勝俣の指紋のみが検出されている。ということは、これは勝俣の持ち物で、誰も触っていないことになる。
しかし、真夏の海水浴場に大の男が一人で来るだろうか。しかも、ボートを借り出し、一人で素っ裸。もし、誰かが一緒なら勝俣の衣類をすべて持ち去ったことになる。果たして、人目につかずにそんなことが出来るだろうか。
ああでもない、こうでもないと考えてしまうのは刑事の習性だろうが、篠沢は、思わず眩暈がして両手で目頭を抑えた。
「長さん、篠沢さん」
監察医に立ち会っていた窪田章介刑事の声に、我に帰った篠沢刑事は、突然、
「オイ、カセットをかけてみろ!」と唐突に窪田に指示した。
「先輩、報告が・・・」
驚いた新人刑事は言葉を返した。
「後でいい、ともかくカセットが先だ!」
訳が判らないまま窪田は、大急ぎでカセットをONした。
♪夜なく鳥の 悲しさは
親をたずねて 海こえて
月夜の国へ 消えていく♪
「あん?」
「・・・」
童謡の“浜千鳥”だ。篠沢と窪田は顔を見合わせ唖然とした。何だ、これは・・・。しかも、今、流れているのは、確か、二番じゃなかったかな。二番が終わるとすぐに、
♪青い月夜の 浜辺には
親を訪ねて 鳴く鳥が♪
の一番が流れ出した。
「ウン?」
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