理不尽な要求にゴミ清掃員は
「品のないクレーム」に悩むゴミ清掃員達の哀愁 「俺らは人目についちゃいけねえ仕事だからよ」
東洋経済オンライン滝沢 秀一
2021/01/03 11:00
お笑い芸人だけでなく、ゴミ清掃員としても活躍するマシンガンズの滝沢秀一さん。彼や同業者たちが体験した「理不尽すぎるクレーム」の数々とは? 『やっぱり、このゴミは収集できません 〜ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと』から一部抜粋・再構成してお届けする。
「おい、ゴミ屋どけよ!」と言われたことがある。ゴミ清掃車が道を塞ぎ、通り抜けられないことに腹が立ったのだろう。そんな場所に限って細かく集積所がある。待たせてはいけないと思って、ペコペコしながら、なるべく急いでゴミを回収する。心から悪いなぁと思うも、この1本道を抜けるまでは仕方がない。休まず手を動かし続ける。
「おい、ゴミ屋どけよ」
チラッと後方を見ると、小さな渋滞となっている。痩れを切らした人が車から降りて、僕らのところまでやってきて直接文句を言った。
「おい、ゴミ屋どけよ。ゴミ屋がなんで俺を待たせるんだよ。ここに並んでいる奴、全員そう思っているぞ!」
僕はいつも、「すみません」とは言わず、「ご協力ありがとうございます」と言うように心がけているが、ピンチ。いつも言っていないので、とっさに「すみません」という単語が出てこない。先輩清掃員が、僕の後ろで「すみませんって言え」とささやくので、「すみません」とオウム返しをして頭を下げた。「船場吉兆かよ!」と言いそうになった。危なかった。
僕が今ここで文章を書けているのもあのとき、そう言ってやり返されずに済んだおかげだ。この場合、誰にやり返されるのかわからないが、目の前の山賊のような男か、ゴミ清掃界のささやき女将にメッタメタにされていただろう。
僕はここでの山賊の言葉を、「ゴミ清掃をやるような連中が一般庶民を待たせるなんて、どういうつもりだ?」というような意味にとらえた。それはそうと、先輩清掃員も気づいたのなら自分で謝ればいいのにとも思ったが、あれだけブチ切れている人を目の当たりにするとめちゃめちゃ怖いので、ささやく気待ちも少しわかる。あれは山賊の中でも相当ランクの高い山賊だと思う。
こういうことは年に数回ある。山賊とは別にこういう人もいた。
「おう、ゴミ屋、おおう、ゴミ屋よおー、どこに目をつけてるんだよ。ここにゴミあるだろうがよおお!」とガラガラヘビでも現れたかと思ったら、住民だった。
こっちは粗大ゴミ回収に伺い、品物が見つからないので、チャイムを押しただけである。相撲で優勝のかかった大一番の力士のような気迫だった。時代が時代なら、鳴かないホトトギスを殺しまくっているのだろう。
やはり日本は拳銃の所持を絶対に認めてはならない。当然、借りた金は踏み倒すタイプの人間だが、仕事なら接触しない訳にはいかない。虎の尾を踏む覚悟で話しかける。いや、粗大ゴミどこですか?って聞いただけだよ。
ハリセンボンの卜ゲが出ているような背中を見ながらついていくと、その組大ゴミはゴミボックスの隙問に置かれた板であった。いやいやいや、絶対にわからない。これに気づく清掃員は、全国探してもきっと皆無。ゴミ清掃事業の長い歴史の中で1人正解できたかどうかであろう激ムズ問題である。
「ゴミ屋がなんでゴミわかんねえんだよ? ゴミ屋のくせによ! ゴミ屋が俺の時間を使うんじゃねえよ」
山賊と並べて、どちらの気炎の方が優勢か比べてみたいほどだったが、意外とそのときには冷静に観察していた。売り言葉に買い言葉であれば、こちらもヒー卜アップして腹も立つだろうが、出会いざまにマックステンションだと呆気にとられる。こういうとき、僕はどうしても人間の品定めをしてしまう。品格と言ってもいいだろう。感情が振れたときにどういう言葉を使うのかが、その人の根っこのような気がする。
ゴミ清掃員が感じた「職業の序列意識」
山賊とガラガラヘビの言葉から潜んでいる内面意識を読み取った。職業の序列意識だ。
彼らは怒鳴ることで、鬱積したストレスを発散させるが、なるべくならこの清掃員に致命傷を与えたい。自分の思いつくボキャブラリーの中で最も汚い「ゴミ屋」という言葉で罵ろうというのが透けて見えた。
普段、僕らは自分達のことを指すときに「ゴミ屋」と呼ぶが、この職業に就いていない者がそう言う場合には、こちらを踏みにじろうとする意図が見える。
しかしながら、おばあちゃんがゴミを持って「ゴミ屋さーん、待ってー」と言われでも全然腹が立たないから、言い方と文脈ではあることは付け加えておきたい。
罵声ではなくても、序列意識があるとはっきり確信した出来事があった。清掃員を始めて3年ほど経ったある日、老齢の男性が僕らに聞こえるようにこんなことを言っていた。隣に住んでいるだろう老齢の女性にカッコつけている。
「ゴミ屋なんて何回も回ってくるんだから、そこら辺に置いておけよ」
そう言って、老齢の女性から不燃ゴミを奪った。
「回ってこなかったら、来させればいい。俺が電話してやるよ」と、手に持った不燃ゴミをアスファルトに放ったのであった。
その日は粗大ゴミ回収で、僕はたまたま通っただけだったので、担当は不燃ゴミではなかったが、明らかに僕達に聞こえるように言っていた。ゴミを拾わない僕らに不思議そうな顔をしていた。きっとこの老人にとってゴミ清掃業者は全部一緒なんだろう。僕はゾッとした。こういう人が世の中には確かにいる、と思わせるような行為だった。
僕は世の中から「〜〜のくせに」という言葉がなくなればいいと思っている。「〜〜のくせに」という言葉がつけば、だいたい腹が立つ。男のくせに? 女のくせに? 子どものくせに? 「〜〜のくせに」という言葉には悪意がついてまわる。大概ヒステリックに飛び出すものだが、場合によっては潜在意識の中に序列が潜んでいることもある。
ある大手新聞社がその昔、「教師からゴミ清掃員まで」という記事を出し、問題になったことがあった。事前に記事をチェックする人が止めなかったことも含めると、より大きな問題のような気もする。「〜〜まで」という言葉がつくと一番下という表現になる。恐らく記者は何の悪意も持っていなかった。だからこそナチュラルに普段から序列をつけていたのかもしれない。
僕は昔から職業に順番はないと思っている。もちろんやりたい仕事としてお笑いが一番やりたいと思う気持ちはあったが、仕事自体の優劣はないと患っていた。なので、ゴミ清掃を始めた頃、年輩の清掃員がこんなことを言うのを、不思議に感じていた。
「俺らは人目についちゃいけねえ仕事だからよ」
卑屈に思っているのか何なのか、理屈がわからなかったが、僕はそんなものですかねえ?と話を合わせた。そう言いながら、心の中では考えすぎなんじゃないかあと思い、自分がゴミ清掃を始める前は、この仕事をどうとらえていたかを思い返した。
芸人だからこそ「違和感」を覚えた
あまりイメージがなかった。そういえば、まじまじ見るのはよくないのではと思って、あまり見ないようにしていた。正確に言うと、臭いなぁという気持ちを顔に出したら悪いので、急いで通り抜けでいた。これだけ生活に密着している仕事なのに、何も知らないというのも不思議なものだ。
そう思い返してみると、見てきた景色がガラリと変わって見えてくる。こんなに大きな車に乗って、堂々と回収しているのに、街ゆく人達と目が合わない。まるで僕がその場にいないかのような錯覚に陥った。自分が透明人間になったかのように思うのは生まれて初めてだった。
年輩の清掃員にそれを話すと、「そうか? それは滝沢君が芸人をやってるからじゃねえ?」と言われ、しばらく考えると合点がいった。人の注目を集めるお笑いをやっているからこそ覚える違和感だった。
人の注目をいかに浴びるかだけを考えて生きてきたので、まるで見られないという視線に初めは驚いたのだ。だが、もっと驚いたのは、ゴミ清掃を始めるまで、僕自身も清掃員を見ていなかったことに気づいたことだった。
それまで僕は、ゴミ回収をしている場面に出くわしても、なるべく嫌な顔をしないように心がけ、「何事もないですよ!」顔で、見ないふりをして通り過ぎていた。これとまったく同じ態度を受けている。
しかし、だからと言ってまじまじと見てほしいというものでもない。ゴミ清掃は公の仕事だから、隅から隅まで見られていると思って従事しろと、よく会社の朝礼で言われる。不思議なものだが、透明人間のような錯覚には陥るが、厳しくチェックされているという妙な感覚をゴミ清掃員は感じている。
山賊やガラガラヘビ以外にも理不尽なクレームはある。
「ゴミ清掃車はこの道を通るな」
でもわれわれはその道のゴミも回収しなくてはならない。常勤で働いている人は、その道の各家庭のゴミを手で持って何度も運ぶ。清掃車を集積所につけられるのは嫌でも、ゴミは排出する。
「回転板の音がうるさいから、ここではボタンを押してはいけない」
でもゴミは排出する。理由を聞けば、最近夜勤に変わったから、朝は寝ているということだ。両者とも剥いて剥いて芯を覗けば、最終的な言い分は、税金で飯食っているんだから、従って当然だろうというカードを用意している。でもそのカードは無効だと思う。
もし国がゴミ事業をやめたらどうなるか
もしゴミ事業をやめて、その分の税金は違うことに回しましょうとなったら、国としてはラッキー以外の何物でもない 。年間約2兆円もの予算を費やして、赤字にしかならないゴミ事業がなくなれば、悩みの種が1つなくなる。
何だったらその分、税金を還付いたしましょう。家庭から出たゴミは各々、ダイオキシンの出ない小型の焼却炉を買って燃やしてください。灰は庭に埋めてはいけませんが、コンクリートで底をひいて雨で流れないようにすればオッケーです。少しでもお金にしたいなら缶とかびんとかリサイクル業者に持っていったらいいですよー。換金されますんでー。ゴミ燃やすの面倒だと思いますんで、なるべくゴミの出ない生活をするでしょうから、願ったり叶ったりですよー。
でも不法投棄したら、捕まえますよー。衛生面でも防犯面でも見逃す訳にはいかないですからねー。焼却炉を置けない家庭はゴミ業者と契約してくださいー。でも生活に絶対に必要なものですから、きっと業者も足元を見て、どんどん値上げしていきますけど、仕方がないですよねー。楽になりました。あ、ざーすっ!となる。
僕らは労働の対価として税金から給料をもらっている。できるだけ心地よく住民の皆さんには過ごしてもらいたいと思っているが、うちの店に是非寄ってくださいという営利を目的としたサービス業とは違う。理由によってはできる限りのことはするが、税金を横領している訳ではないので、理不尽な要求すべてを飲み込むことはできない。
おばあちゃんがゴミ重いから持っていってよーというのはよろこんで運ぶ。困っていることがあれば、手助けするのは僕らとしても嬉しい。人の役に立つってやってみると楽しい。
これはゴミ清掃だけの話ではなく、仕事の内容とそれに見合った報酬を何の引け目もなしに、堂々と受け取れる時代にしたいと思っている
㊟先ず、清掃員を「ゴミ屋」と呼ぶ人がいるのに驚いた。私のような俗人でも口にしたことはない。もし、私がその現場にいたら「ゴミ屋」と呼んだヤツをドスの効いた声で怒鳴り飛ばしているだろう。
互いに、人を尊重しなきゃ、、、ゴミ屋と呼ぶ奴ら、ゴミ処理機に放り込んだらいい。
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