「会社のお金をちょっとだけ…」
「会社のお金をちょっとだけ…」転落人生の始まりは、誰にでも簡単に訪れる
THE21オンライン2020/12/14 20:30
企業のコンプライアンスに対する社会の目は厳しさを増すばかり。経営・組織コンサルティングを数多く行う秋山進氏は、「実は会社を窮地に陥れるような企業不祥事は上からの圧力によるものが多い」と指摘する。
企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した秋山氏は新著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』において、企業で起こりがちなコンプライアンス問題を例に挙げつつ、その行為の違法性や対応策を解説している。
本稿では、同書より背任罪、横領の2ケースについて触れた一節を紹介する。
※本稿は秋山進著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』(日本能率協会マネジメントセンター刊)より一部抜粋・編集したものです。
■「社長、そのお金何に使うのですか?」とは絶対に言えない…
【秘書課長の独り言……】プロ経営者として会社の再建に成功した社長は、社員にとって神様のような人である。ただ、ちょっと気がかりなことがある。
あるとき、社長の視察旅行の計画を立てたが、欧州の販売拠点の訪問に家族全員がついていくという。そして会社がすべての費用を支払うことになっていた。
社長は仕事においては抜群の能力を示す一方で、お金については何でも会社に支払わせる習慣がある。私は、これでよいのかと思う一方で、社長の会社への功績を考えると、このくらいの便宜をはかっても十分なだけのお方なのだから、とすべての私的な依頼を黙々とこなしていた。
社長の依頼が私にとって危険な領域に近づいてきたのは、課長に昇進してからである。社長の一存で決めることのできる予算(社長予備費)があるのだが、その管理を私がまかされることになった。この仕事をし始めて、胃が痛くなる思いがした。社長のお付き合いの幅はとても広い。
お祝いの類だけでもたいへんな量がある。そして、相手先がどういう人でなぜ払うのかよくわからないものもある。社長は支払いの中身を饒舌に説明してくれるときと、余計なことは調べるな、マシーンとして言われたことをやれと、まったく支払いの中身を語らず、無言の圧力をかけてくるときがある。
不安になって、相手先を調べたりもした。いろんな悪評がネット上にあがっていることもある。それならまだましだ。調べても何もわからない会社や個人に出くわすこともある。
そういう会社や個人に社長自らが多額の支払いを命ずるというのはいったいなんだろう?不安になって先輩に相談してみた。先輩のアドバイスはシンプルだった。
「サラリーマンとして人生をまっとうしたかったら、あまり知りすぎてはいけない」
それはそうだ。しかし、このようなお金の支払いをそのままにしておくことは、問題にならないんだろうか?株主はどう思うのだろう?社員の年収をはるかに超える額がポンポン消えていく。これでいいのか?私の疑念はさらに深まる。
■「偉い人」が行う背任罪、それが特別背任罪
取締役が他者や自分の利益を図り、任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合、会社法の特別背任罪の適用の対象になります。
たとえば、取締役が取引先に多額の資金を貸し付けたり、会社の財産を自分のために使ったり、利益が出ていないにもかかわらず株主に配当をしたりするなどして会社に損害を与えた場合には、会社法に定める特別背任罪が成立し、「10年以下の懲役か1000万円以下の罰金またはその両方」が科せられる可能性があります。
ただし、立証のハードルは高く無罪判決も少なくありません。被告側が問題の支出や融資を「会社のためだった」「適正な手続きを踏んだ」と争うケースが多いためです。今回も、社長予備費は社長の裁量で使えるという規定があるため、特別背任罪を問えるかどうかの判断は難しいとも言えます。
■「長いものに巻かれる」でいいのだろうか?
会社に対して大きな貢献をした人であれば、多少の問題行為は許されるという人もいますが、そうではありません。
社長は株主から委任を受けて会社の経営を行っているのだから、忠実かつ善管注意義務(「善良な管理者の注意義務」の略。業務委任された人の能力等から期待される注意義務)をもって経営を行うべきであり、それを逸脱する(判定は難しいですが)ことは許されないことです。
サラリーマンとしての人生を考えるならば、長いものに巻かれることを全否定することはできないと思われます。先輩の忠告はもっともだ、とも言えます。
しかしながら、会社のお金を私的に使っても悪びれない経営幹部がいれば、会社や社員全体のモラルは崩壊します。改心を迫るか、排除するか等を社外取締役や監査役等とも相談しながら対策を練ることが必要です。
では、もう一つ、別のケースも考えてみましょう。
■「横領」が起きるメカニズム
関係会社経理部長の独り言……俺はしてはいけないことをしてしまった。出向先のこの会社は、会社の金を勝手に引き出して使っても、帳尻さえ合わせておけば誰も気づかない。内部統制がまったくできていないのだ。
分けるべき業務の分割もされていなければ、第三者からのチェックもない。俺の一存で金の出し入れができる。これまで30年間、1円たりとも会社の金に手を出したことはないけれども、今回10万円ほど使ってしまった。
まあ、返せばいいのだ。返せばなんの問題もない。まだ引き返せる。これまでも金で失敗した人を俺はたくさん見てきたじゃないか。まだ引き返せるぞ。でも俺はこの出向先でこれからも普通のサラリーマンを続けるのか?何か希望はあるのか?
【1年後】――もう引き返せない。これだけ使うと期末の帳尻合わせも大変になってきた。もう毒を食らわば皿までだ。まあ、いままで会社には大きな貢献をしてきたんだから、少しくらいもらってもいいだろう。給料も下がったしな。
それにしても本社は何をやってるんだ。いい加減なチェックしかしないから、俺がこんなに使っても見つけられないんだもんな。経理のなんたるかが全然わかってないシロウトが担当役員になる会社だから仕方がないか。
会社って何なんだ?戦略的な視点が必要とか立派なことを言っているが、こんな程度の不正すら見抜けないのだから、笑わせる。俺が本社にいたときは、内部統制やれ!と言われてメンドクサイと思っていたが、違ったな。
あれは会社を守るだけでなく、社員を守るためのものだったんだ。悪いことしようと思ってもできないようにするのだから。内部統制をやらない会社や役員たちは大バカだ。
俺の話は、絵に描いたような転落物語だな。本社の課長時代は、経理に配属された新入社員たちに毎年、経理マンの心得を説教していた。「お金の誘惑に負けてはいけない」「高い倫理観を持て」と。
俺は何を間違ったんだろう?金の誘惑に負けたんだろうか?それとも、出向で小さなプライドが崩れたことで、自分自身も壊れてしまったんだろうか?
■刑事罰だけでなく、損害賠償の可能性も
業務上横領罪は、業務として他人の物を預かっている者が、その物を自らの物にした(横領)ときに成立します。被害を受けた会社が警察に告訴状を提出し受理されれば、事件としての捜査が進みます。
起訴された場合は、刑事裁判が開かれ、実刑か、執行猶予かが決まります。業務上横領罪では「10年以下の懲役」が科せられます。
業務として委託を受けた権限を逸脱した行為にあたるため、単純な横領罪よりも罪が重く、被害額にもよりますが、実刑判決が出ることもあります。さらに、当人は会社での懲戒解雇等の人事規定上の処分を受け、会社からは損害賠償を請求されることになりえます。
■一度下がったハードルを上げることは難しい
最初はちょっと借りたつもりのお金が溜まりに溜まってしまうのが業務上横領の特徴です。誰か別の人がこまめにチェックする体制を構築しておけば、事件は未然に防げるのですが、ノーチェックの期間が長いと、本ケースのような犯罪者をつくってしまいます。
横領を行う人に問題はあります。しかし、お金の出し入れが1人の裁量で自由自在に行える、誰にもチェックされない、といった状況にあれば、こういった事件は容易に起こります。
本件の当人が言うように、内部統制の整備はそれを防ぐためのものであり、本社のみならず、関係会社や地方拠点などでもしっかりとした体制づくりをしておく必要があります。
これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース
秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)
様々な企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した著者が、ありがちなコンプライアンス問題を上司と部下とのミニストーリーで解説。汎用的なケースばかりですので、社内のコンプライアンス研修テキストにも使えます
秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)
『THE21オンライン』2020年10月15日 公開)
㊟人間はお金の誘惑に負けやすいものです。しっかりした倫理観の持ち主でも会社の周辺の知人、友人たちの楽しい姿を見れば、「俺だけ、なんでこんなつまらない人生を…」と考えてします。
私も芸能界、大物政治家秘書、また芸能界、そして物書きに転じながら政治家顧問・相談役、選挙参謀等々で常に金に囲まれた生活でしたから、結構大変でした。ま、摘発されることなく医学部歯学部の裏入(領収書ナシ)も数多くやってましたし、著書も毎年2冊も発刊、しかもすべて初版から2万5000部、、、毎月2~3の地方講演、選挙の旅に数カ所からの選挙応援ギャラ(領収書ナシ)とまさにあぶく銭。
あぶく銭ですから手元には一銭も残っていません。私から大金借りた連中、未だに一銭も返しませんからね。請求するのが面倒で「返せ」と言わないから。。。これが資産家三代目の悪いとこ。金を貸しても返せと言わず、あちこちの保証人になって資産を潰した父とまったく同じ事している。
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