「電力会社は石炭火力止めよ」
「電力会社は石炭火力止めよ」
「電力会社よ、稼ぎ頭捨てよ」宣告の強烈な衝撃 旧式だが高収益の石炭火力発電に不適格の烙印
東洋経済オンライン岡田 広行
2020/07/27 07:50
「非効率な石炭火力発電」がフェードアウト(退出)を迫られる――。
梶山弘志経済産業相は7月3日、発電効率が低く、二酸化炭素(CO2)を多く排出する旧式の石炭火力発電設備を動かせなくする規制措置を導入する方針を明らかにした。7月中に有識者を集めた会議の場で、具体的な制度設計の検討を開始する。
『週刊東洋経済』7月27日発売号は、「脱炭素 待ったなし」を特集。脱炭素に向けて加速する欧州に比べ、出遅れる形でようやく動き出した日本の課題を描いた。
原子力発電所の再稼働が遅れている現在、石炭火力発電が生み出す発電量は全体の32%を占めている(2018年度実績)。今回やり玉に挙げられた旧式の石炭火力は、その約半分を占める重要な電源だ。
環境性能では劣る反面、設備が簡素であるためメンテナンスが容易で、減価償却が進んでいることもあり、「競争力では非常に優位にあった」(JERA(ジェラ)の奥田久栄常務執行役員)。つまり電力会社にとっては「非効率」ではなくむしろ「高収益」の設備だった。
それだけに、電力各社への衝撃は大きい。虎の子の資産に対して経産省から環境性能の面で“不適格”の烙印が押されたからだ。方針発表後、電力各社には投資家からの問い合わせが相次いだ。
特例措置がなければ追い込まれる電力会社も
大手電力会社の中でフェードアウト政策の影響を強く受けそうなのが、沖縄電力、北海道電力(北電)、J-POWERといった、非効率な石炭火力発電への依存度の高い会社だ。
北海道電力と北陸電力は敷地内の断層の活動可能性をめぐって原子力規制委員会と見解の相違があり、原発再稼働の見通しが立っていない。しかも、高効率の石炭火力発電所の新設・リプレース計画も持ち合わせていない。
沖縄電力はさらに厳しい。ほかの大手電力会社と電力系統がつながっていないからだ。5割以上を占める旧式の石炭火力発電所を休廃止した場合、供給エリアが電力不足に陥るおそれがある。
こうした電力会社は、特例措置がなければ、経営面で甚大な影響を被りかねない。経産省は「電力の安定供給は大前提」(幹部)と言うが、非効率石炭火力への依存度の高い会社が無傷で済む保証もない。
なぜ経産省は非効率設備の退出を求めるのか。背景には、脱炭素化へ向かう世界の潮流がある。
経産省の幹部は、「高効率の石炭火力発電所の新たな運転開始が見込まれる中で、2030年度のエネルギーミックス(電源構成)目標を確実に達成するためには、非効率な石炭火力を限りなくゼロにしていく必要がある」と説明する。
パリ協定に基づいて政府が提出した温室効果ガス削減目標(2030年度に2013年度比26%削減)の達成に向け、石炭火力発電の割合は30年度に全体の26%まで引き下げなければならない。しかし、現在は32%と、その目標を6%ポイントもオーバーしているうえ、100万キロワットクラスの大型のものを含めて17基の石炭火力発電所の新設・リプレース計画が全国に存在する。
仮にそれらすべてが稼働し、非効率な石炭火力も運転を続けると、石炭火力発電への依存度は40%近くに達してしまう可能性がある。そうなれば、温室効果ガス削減の国際公約を守れず、世界から批判が集中しかねない。
旧式石炭火力のフェードアウト方針は2年前に決定
実は、非効率な石炭火力のフェードアウト方針は今回決まったものではない。2018年7月に閣議決定された現行の第5次エネルギー基本計画で、「フェードアウトを促す」と言及されている。だが、何ら具体策が講じられることのないまま2年の歳月が経過していた。
現行のエネルギー基本計画は、2021年夏までに見直し検討の着手をすることが法律で定められている。それまでに手を打たなければ、経産省は不作為との批判を免れない。その意味でも今回、フェードアウト方針に基づく具体的な検討が始まることに驚きはない。
今も政府は、石炭火力をやめさせたり、2030年度の目標比率26%を引き下げたりする方針は示していない。梶山経産相は「資源の乏しいわが国において、エネルギー源のベストミックス(多様化)のうえでも、(石炭火力を含む)1つひとつの電源は放棄できない」と断言している。
現在のエネルギー基本計画で石炭火力は「安定供給性と経済性に優れた重要なベースロード電源」とされている。「高効率」とされる超々臨界圧以上の新設計画に規制は設けない。
しかし、将来にわたって石炭火力が優位性を発揮できる保証はない。2050年における温室効果ガスの80%削減目標を掲げているからだ。実現を目指す場合、大気中にCO2を大量排出する発電の継続が困難になる。従来型火力の退出を促す炭素税の本格導入も視野に入ってくるだろう。
エネルギーの安定供給と脱炭素化をどのように両立させていくのか、日本は極めて難しい課題を突きつけられている。
温暖化対策で、はるか先を行く欧州
世界に目を転じると、日本とは違った光景が広がる。先端を走るのは欧州連合(EU)だ。エネルギー面での取り組みや、環境などに配慮したESG(環境・社会・企業統治)投資の状況を比較すると、日本より欧州のほうがはるかに踏み込んで対応していることがわかる。
2015年9月の国連SDGs(持続可能な開発目標)と、同12月の地球温暖化対策のためのパリ協定採択をきっかけに、欧州委員会は「サステイナブル金融に関するハイレベル専門家グループ」(HLEG)を設立。2018年1月のHLEG最終報告書において「タクソノミー」の導入が提言された。
タクソノミーとは、一般に「分類」を意味する。ここでは地球温暖化対策を進めるうえでの投資対象として、各産業分野における技術や製品の適格性を分類する。
今年3月にまとめられた「サステイナブル金融に関するテクニカル専門家グループ」(TEG)の最終報告書によれば、環境に優しいとされる「グリーン」に分類された投資対象に石炭火力発電は含まれていない。
それのみならず、相対的にCO2排出量の少ないガス火力発電についても、CO2排出を1キロワット時当たり100グラムまでにとどめなければ、「サステイナブル」(持続可能)とは認められないとされた。
日本の現在のLNG(液化天然ガス)火力発電から排出される量、1キロワット時当たり478グラムの4分の1以下の水準だ(電力中央研究所調べ)。つまり、CO2の回収・貯留(CCS)技術を付加しない限り、LNG火力であってもグリーンに分類されることにはならないのだ。
タクソノミーは確定したものではない。TEGの最終報告書をベースに、欧州委員会がタクソノミーに関する法律に基づいて今年12月に具体的な規則を発表することになっている。だがその際には、「TEGの報告書に記載された内容が、ほぼそのまま用いられることになるだろう」とEUタクソノミーに詳しい水口剛・高崎経済大学教授は解説する。
そのうえで水口氏は、「欧州委員会によるタクソノミーの決定は、欧州の投資家に対してある種の強制力に相当する影響を与える」と見通す。というのも、「欧州委員会が定めた別の規則により、投資家がどれだけグリーンな投資をしているか、投資においてサステイナブルリスクを考慮しているかについて情報開示する際の判断基準としてタクソノミーが用いられる」(水口氏)からだ。
EUはこのように金融を通じて、グリーンに区分された分野への投資を誘導しようとしている。エネルギー分野においては、太陽光や風力など再生可能エネルギーがそれに該当する。
欧州委員会は昨年12月、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするなどの目標を法制化する「欧州グリーンディール」を公表し、新たな成長戦略に位置づけた。新型コロナウイルスのパンデミックのさなかであっても、グリーン経済への移行戦略に、ブレーキをかけていない。それどころか、アクセルをさらに踏み込もうとしている。その象徴が5月27日に欧州委員会が提案したコロナ禍からの復興計画「次世代EU」だ。
同計画に基づきEUは、今後の経済復興において、エネルギー転換を含む温暖化対策をさらに加速していく。
欧州委員会が明らかにした「水素戦略」
そのことを象徴する動きとして7月8日、欧州委員会は再エネ由来の電力を用いた水素製造を柱とする「水素戦略」を明らかにした。
欧州は将来の温室効果ガス排出ゼロから「バックキャスト」(逆算)して、さまざまな目標や制度を設計しようとしている。タクソノミーもそのツールの1つであり、EUの戦略的思考を裏付ける。
日本での最近の動きも、EUの動きを参照しながら見ると、その意味するところを理解しやすい。
経産省は非効率石炭火力のフェードアウトの具体化と併せて、送電線の利用ルールを抜本的に見直す方針を打ち出した。これまでは、先に接続していた事業者の電力を優先して送電線に流せるというルールだった。これを、再エネ電力のほうが火力発電の電力よりも優先して流せるように改める。洋上風力発電の拡大を念頭に置いた見直しだ。
こうした再エネ優先ルールは、EUですでに導入されており、再エネ大量導入の道を開いている。
日本ではこれまでエネルギーの制約から脱炭素化は絵空事と見なされてきた。それが今や企業のビジョンや成長戦略の柱として語られるようになってきた。日本経済団体連合会が音頭を取る形で、脱炭素化を目指す企業連合の「チャレンジ・ゼロ」が動き出したのも危機感の表れだ。脱炭素化の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る。
『週刊東洋経済』8月1日号(7月27日発売)の特集は「脱炭素 待ったなし」です。
㊟毎年日本列島を襲い大きな被害を出す集中豪雨も、今年のこの異常気象も地球温暖化が原因なのは明らか。その原因の一つが化石燃料である以上、急いで脱化石に踏み切るべき。
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